三年ぶりだった。
「貴女ときっと逢えると思っていた」
コンサートが終わり会場の玄関に車が寄せられた。
アウディの右のドアが開いた。
家族には遅くなるとは言ってでてこなかった。
一瞬戸惑いの表情をしたのだろう。
「ご自宅には、打ち上げのパーティがあるとあの夜の時のように
言ってください」
静かな人だった、私を愛するときも。
知っているのは互いの職業だけ。
何度となく会うようになってもその人の生活のにおいは
漂わなかった。
そういうあの人は、私には好ましかった。
男と女にになるだけの係わりには、必要のないことだから。
好きな香りや、して欲しい事を伝え合うことの方が大切だった。
西新宿の高層ビルの窓辺にあの人と佇む。
「貴女の唇は、弥勒菩薩のようだ・・・」
数年前に京都に急に思い立ちまず弥勒菩薩をみた。
あの人が唇を重ねる前にいつも囁いていた菩薩の唇をこの目で
見たかったから。
「無意識に貴女は唇を少し緩めるね、男がどういう気持ちになるか
貴女はわからないだろう」
「電車の中で、今のような唇の表情をしてはいけないよ」
車窓に映る唇をみて周囲の男たちの視線が気になった。
あの人の言うように、何人かの男たちと視線が絡み合った。
予感が当たった、だからSAMSARAではなくてPOISONを
手にとった。
互いに惹かれるときは、約束も何もいらない。
動物のように匂いでわかる。
戯れの夜に「毒という香り」で貴方を虜にする・・・