小さな溜息が、誰もいない部屋にもれた。
残った仕事のお付き合いをしてくれているような顔をして
机の上にいたコオロギもいつの間にか消えていた。
あと数時間で一日が終わっていく。
一息入れようと思い、到来物の「瀬戸ジャイアンツ」という
威勢のいい名前の葡萄を眺めている。
エメラルド色の葡萄を口に含む。
送り主は、葡萄と同じように清々しくて美しいKドクター。
皮ごとお食べ下さい・・・淡い甘みが口中に広がっていく。
葡萄の旨味を感じる毎に、あの人の声を聞きたいと思った。
あの人とこの葡萄を食べたいと思った。
少女のような願いを、苦笑いしていると
机の下にうずくまっているコオロギが見えた。
土曜の午後雑踏で聞いた声がまだ耳に甘く残っている・・・
あの人の声そして葡萄の甘さが混ざり合っていく・・・