函館には一度だけ行ったことがある。
坂と教会が多い街だった。
一人で参加したのは、私だけだった。
バスに何時間も乗り紺碧の海と切り立った岩を
ぼんやりと眺めていた。
波の煌きが妙に目に突き刺さった。
その旅は、なかじま らもの『愛をひっかける釘』を読んでいた
頃だった。
どうやら私は、また釘を間違えていたらしい。
風の音が耳に囁く。
あれから何度か愛を釘にひっかけたけれど
いつからか違うと思うようになってしまう。
「男なんて、もうこりごり」憔悴した母が呻く様に言っていた。
母には生涯の人がいた、勿論父ではない。
一本の釘が母にはちゃんと用意されていたのだろう。
釘を手にしては、放り出していた女には
神様も厭きれたのだろう。
愛をひっかけるための釘がみつからない…