「扇風機ないでしょ、死んだきで片づけたのよ、みて来てご覧トイレを」
独居、いやな響きの言葉、一人暮らしと言おう。
玄関脇のドアを開けると、右手に棚が作られてそして段ボール箱は
しっかり白い紐で括られていた。
思わず、涙してしまった。
どんな思いで棚をこしらえ扇風機を分解して箱に入れたのだろうか。
そしてどうやって不自由な足でその箱を上にあげたのだろうか・・・
30年住んでいるこの部屋は、当初は仮部屋のつもりで入居したと言っていた。
往診は、Nさんのお話を聞くことが大半。
長野県生まれ、私の両親も同県だと言ったとたん気持ちを
許してくれたようだった。
亡くなった夫の事、子供たちの事そして友人たちの事・・・
お話はいつも尽きない。
「マスゾエさんに言いにいく、介護職の人の給料を上げてくれって」
いつかの往診の時、憤慨して言ってらした。
手打ちの蕎麦や、長野名物おやきそして今日はいつか誰かに
履いてもらおうとしまっていた皮靴を頂いた。
Nさんの笑顔、最近は見ることが少なくなった。
以前のような笑顔をどうやって取り戻せるだろうか・・・